「おしん」とシリア

「おしん」は、今でも世界中のどこかで放映されていると言います。「風と共に去りぬ」も世界中の

どこかで放映されているとか・・・みんな、たくましい女性の物語が好きなのかな?と思います。 

 

シリアは、訪れる異邦人にとっては、とても素晴らしく温かい国でした。

多分、シリアを訪れた事の有る人は、そう言う感想を持っていると想像します。

 

・ダマスカス・・・市街を一望できる高台へ行くために、路線バスに乗りました。乗客は殆どいなくて

         約40分の行程でした。終点で金を渡そうとすると、運転手は。「いらない」と首を

         振りました。ただ、「遠い所から来たんだろう?」「WELCOME」「気をつけて旅をしろ」

         と言ってくれました。

 

         ダマスカスの市街を見渡した後、帰りのバスに乗りました。運転手は違う人です。

         降りる時、やはり運転手は、「金はいらない」と言いました。

         行きの時と同じ様に「俺達の国に来てくれてWELCOME」と言うことでした。

 

         「ありがとう」と思いました。その夜は、暖かい気分で寝床につけました。

 

         土産物屋では、良い感じの親父が出迎えてくれました。

         やはり、最初の言葉は「WELCOME」です。お茶をご馳走になりながら

         話し込んで行くうちに、その親父は、「シリアは、良い国なのに

         何で世界の人が来てくれないんだろう!」と言って、泣き出してしまいました。

         

         「何て純情な人達なんだろう」と好感を、持ちました。

 

・パルミラ・・・女王ゼノビアが統治したパルミラは、だだっ広い空間に、崩れた遺跡が点在して

        その風化した感じが、魅力的な遺跡です。

        パルミラに行くには、途中の町を経由していくのですが、その行き方を伝え聞いていて

        「所在無げにしていると、必ず水戸黄門のようなおじいさんが出てくるから

         その人にバスに乗せてもらう」と言うものでした。

        で、その通りにしていると、「お若いの、何かお困りかな?」と、おじいさんが

        声をかけてくれました。それで、彼に指示を受けた若者にパルミラ行きのバスに

        乗せてもらいました。

 

        パルミラでは、シリアが好きで毎年、会社の冬休みを利用してシリアを

        訪れていると言う日本人に出会いました。「えっ、毎年ですか?」と

        びっくりしました。シリアは、やはりムスリムの人が多数派ですので

        どこへ行っても、男の人が多く、はっきり言って、「むさ苦しい」国です。

 

        でも彼が、シリアの人達と接している時の表情が、心から楽しそうに

        しているのを見て、納得しました。「本当に、好きなんだなあ」と。

        そして、その気持ちが、少し分かるような気がしました。 

 

・アレッポ・・・アレッポは、古い雰囲気のある市場(スーク)が、魅力的な街です。

        ここでの食事は、ほとんど同じ食堂に通っていました。

        そこの親父は、私達が行くと、「WELCOME」と言い、その後に

        はにかんだ様な笑顔を見せるのです。それが、可愛らしくて

        みんな彼の笑顔のファンになり、そこに通っていました。

 

        スークから、少し外れた場所に土産物屋が有り、とても柔らかい表情の

        ハンサムな若者が座っていました。彼の笑顔に引き込まれるように、

        その店に、腰を落ち着けました。陽の高いうちに、座ったのですが、

        日暮れまで、話し込む事になりました。一つ一つ言葉を選んで、

        相手の言った事を、ゆっくり咀嚼してから返答する彼のペースは、

        先進国とは異なるシリアの時間の流れを感じさせました。

        話していると、どんどん癒されていく気分でした。

 

        私は、かねがね「おしん」の何が、世界中の人々を、引き付けているのか

        知りたいと思っていました。それで彼に、「おしんと言うドラマは、知っている?」

        と聞きました。その瞬間、彼は「パッと灯りがついた」様な表情になりました。

        「おしん・・・」と呟いて、それだけで興奮しているようでした。

        

       それで、「おしん」のどこが、あなた達の心に響くのですか?と聞きました。

 

       すると彼は、やはり目をつむって、深く考え込み、それから目を開けて

       柔和な笑顔で「おしんは、女性の中の女性(woman of the woman)

              なんです。」と、言いました。それから、更に愛しい人を抱擁するかのように

       手を広げて、「女性以上の女性なんです。」と、言いました。

 

       「おしん」と言うドラマは、世界中の人から深く愛されているのだな、と思いました。

       彼との対話は、本当に楽しいものでした。 

 

       中東と言う地域は、シリアに限らず、紛争が身近に有り、日本の映画やドラマが

       よく見られているようです。私が日本人だとわかると、「二十四の瞳」について

       熱く語りだし、感極まって泣き出してしまった中年の男性の背中をさすった

       経験も有ります。

 

       シリアの人々の心に深く浸透している「おしん」は、今まさに現実のドラマであり

       心の支えであり、励ましのドラマだと思います。

       

       「おしん」は、日本で作られましたが、世界中で愛される普遍のドラマなのだと

       思います。

 

                                     2012年8月26日 槻木記